「紙一重(かみひとえ)」=今日のことば(73)

◎紙一重(かみひとえ)

松下電器産業株式会社(現パナソニック㈱)創業者 松下幸之助

 天才と狂人とは紙一重というが、その紙一重の違いから、何という大きなへだたりが生まれて来ることであろう。たかが紙一重と軽んじてはいけない。そのわずかの違いから天才と狂人ほどの大きなへだたりが生まれてくるのである。

人間の賢さと愚かさについても、これと同じことが言えるのではなかろうか。賢と愚とは非常なへだたりである。しかしそれは紙一重の違いから生まれてくる。すなわち、ちょっとしたものの見方の違いから、偉い人と愚かな人との別が生まれてくるのである。どんなに見ようと、人それぞれの勝手である。だからどんな見方をしようとかまわないようではあるけれど、紙一重のものの見方の違いから、賢と愚、成功と失敗、繁栄と貧困の別が生まれてくるのであるから、やはりいいかげんにものの見方を決めるわけにはゆくまい。

考えてみれば、お互いの生活は、すべて紙一重の違いによって、大きく左右されているのではなかろうか。だからこの紙一重のところをつかむのが大切なのであるが、これにはただ一つ、素直な心になることである。素直に見るか見ないか、ここに紙一重の鍵が潜んでいる。

「日々是新(ひびこれあらた)」=今日のことば(64)

◎日々是新(ひびこれあらた)

松下電器㈱創業者 松下幸之助

 年があらたまれば心も新たまる。心があらたまればおめでたい。正月だけがめでたいのではない。心があらたまったとき、それはいつでもおめでたい。昨日も今日も自然の動きには何ら変わりはない。照る陽、吹く風、みな同じ。それでも心があらたまれば、見るもの聞くものがみな新しい。

年の始めは元旦で、一日の始めは朝起きた時。年の初めがおめでたければ、朝起きた時も同じこと。毎朝、心があらたまれば、毎日がお正月。あらたまった心には、総てのものが新しく、総てのものがおめでたい。

昨日はきのう、今日はきょう。昨日の苦労を今日まで持ち越すことはない。「一日の苦労は一日にて足れり」というように、今日はまた今日の運命が開ける。昨日の分まで背負ってはいられない。毎日が新しく、毎日が門出である。「日々是新」なれば、すなわち「日々是好日(ひびこれこうじつ)」。素直で謙虚で、しかも創意に富む人は、毎日が明るく毎日が元気。

さあ、皆元気で、新しい日々を迎えよう。

「是非善悪(ぜひぜんあく)以前」=今日のことば(56)

◎是非善悪以前(ぜひぜんあくいぜん)

松下幸之助(松下電器(現パナソニック)創業者・「経営の神様」と言われる)

 この大自然は、山あり川あり海ありだが、すべてはチャンと何ものかの力によって設営されている。そして、その中に住む生き物は、鳥は鳥、犬は犬、人間は人間と、これまたいわば運命的に設定されてしまっている。

1224 これは是非善悪以前の問題で、良い悪いを越えて、そのように運命づけられているのである。その人間のなかでも、個々に見れば、また一人ひとり、みなが違った形において運命づけられている。生まれつき声のいい人もあれば、算数に明るい人もある。手先の器用な人もあれば、生来不器用な人もある。身体の丈夫な人もあれば、生まれつき弱い人もいる。言ってみれば、その人の人生は、90% までが、いわゆる人知を超えた運命の力によって、すでに設定されているのであって、残りの10% ぐらいが、人間の知恵、才覚によって左右されるといえるのではなかろうか。

 これもまた是非善悪以前の問題でるが、こういうものの見方考え方に立てば、得意におごらず失意に落胆せず、平々淡々、素直に謙虚にわが道を開いてゆけるのではなかろうか。考え方はいろいろあろうが、時にこうした心境にも思いをひそめてみたい。