◎ 雪国の生活をつづる「北越雪譜」
鈴木牧之(1770~1842)
鈴木牧之は越後の国(現在の新潟県)塩沢に生まれました。父親は質屋と縮織りの布の仲買をしていました。仕事のかたわら俳諧をたしなみ、号は周月庵牧水といいました。牧之の「牧」は牧水の「牧」で、牧之も家業に熱心なだけでなく文人でした。
牧之は「1尺(約30センチ)も雪が降ると、それを大雪だというのは、その土地がもともと暖かい国だからだ」と言います。また、「雪がたくさん降ると、その年は豊年だというのも、暖かい国の話だ」と述べ、同じ雪でも暖かい国に降る雪と、降り出したら何メートルも積もる雪国の雪とでは、同じように論じられないことを指摘しています。「1尺以下の雪しか降らないような土地なら、あたり一面の銀世界はあくまで美しく、風に舞う雪を花にたとえることもできよう。また、雪を眺めながら酒を飲んだり、音楽を楽しんだり、雪の風景を描いて楽しむこともできるだろう。しかし、越後のように、毎年雪に埋まってしまうようなところでは、雪を楽しみの対象になどはできない」と言うのです。
現在でも雪が降ると「スキーが楽しめる」とだけ反応するのは、都会に住んでいる人です。雪国で生活している人は、雪をかき分けなければ生活できませんし、雪に押しつぶされないようにしなくてはならないのです。
天保5年(1834)のことですが、六日町の近くでは初雪から12月15日までの間に、雪が町全体を覆いつくすほど積もったといいますから、それはそれは想像を超えた世界です。鈴木牧之の随筆「北越雪譜」は、雪ひとつを取り上げても、生活の基盤がどこにあるかによって、その受け取られ方が違うことを教えています。<日本例話大全集より>
以上です。